家族論の思想的系譜と家族機能を補完する社会福祉政策の考察 ―トッド『家族システムの起源』を手掛かりに―
https://ippjapan.org/archives/2338
2016 年評判になったエマニュエル・トッドの 『家族システムの起源』 を参照しつつ家族研究の歴史を振り返る
トッドの論は、ジョージ・マードックの 『社会構造 (マードック)』 の補強になっている
いずれも核家族が普遍的な家族形態であるとの結論
トッドの主張は次の 5 つに要約できる
1. 起源的家族は、夫婦を基本的要素とする核家族型のものであった
2. この核家族は、国家と労働によって促された社会的分化が出現するまでは、複数の核家族的単位からなる親族の原地バンドに包含されていた
3. この親族集団は、女を介する絆と男を介する絆を未分化的なやり方で用いていたという意味で、双方的であった
4. 女性のステータスは高かったが、女性が集団のなかで男性と同じ職務をもつわけではない
5. 直系家族、共同体家族その他の、複合的な家族構造は、これより後に出現した。 その出現の順序は、今後正確に確定する必要があるだろう
家族研究の歴史外観
家族機能弱体化につながる理論への批判
トッドの指摘は、家族機能を強化して健全な社会を再建することを妨げようとする上野千鶴子らのマルクス主義フェミニズムや、山田昌弘らの主観主義的家族観への批判にもなっている
核家族が近代の産物であるとしたマルクス主義フェミニズムに対しては、「核家族こそ家族システムの起源」 であることを言明していることで、すでに論破されたとみるべき
主観的家族観については、トッドの 「家族というものはひじょうに重要であり、社会の組織編成にとってはひじょうに中心的なものであるので、芸術のようにときとして支配の原則を逸脱することがある、では済まされないということを認めなければならない」 という言葉で批判できる
家族の定義と機能
核家族が人類の始原から存在していたというトッドの指摘を受けて、家族の定義やその機能といった社会学的視点に目を向けると、どうなるか
家族社会学の大家である森岡清美の定義を踏まえて、筆者は 「目的論的家族の定義」 を提案
「祖父母、夫婦・親子・きょうだいなど近親者を主要な構成員とし、結果としての人格完成に必要な愛を習得するための成員相互の深い感情的係わりあいで結ばれた、第 1 次的な福祉志向の集団である」 というもの
家族の人間関係には人が人間関係を形成する際の基本形がすべて含まれており、それを学習することがその人の人生において決定的に重要であり、それを行える場は、家庭しかないという筆者の理解
この定義を 「目的的」 とした理由は、定義とは通常、すべての家庭に当てはまる概念規定という意味を持つが、現在の家庭状況は、とてもこの定義に合致したものではないから
家族機能に関してはマードックに戻る
筆者はマードックの 4 つに 「老親扶養機能」 を追加
家族機能と社会福祉